最強の道士




「クッ!」
「キシャァァァアアアアアア!!!!!」

初めてのボス戦に苦戦している正男。
どうやら戦い慣れていないようで。

「大丈夫?引き上げる?」
「いや……俺はまだできる…!!」

浩二が引き止めるも、正男は勇気を振り絞って答える。

しかし、正男はもう既に満身創痍だった。


そのとき。


やれやれ、どんなやつかと思ってみていたら、ずいぶんと情けねぇじゃねぇの

中空から声がかかる。正男たちには聞き覚えのない声だ。

その直後、デデババに向かって地面に垂直に電流が走り、轟音が鳴った
それはまさに雷といえるものだった

電流の光が消えたとき、そこには焼け焦げたデデババがいた。そしてあえなくデデババは灰となる。

正男たちは突然の出来事に、呆然と立ち尽くす。


「危ないところだったな」

またも上空から声がかかる。正男たちが振り向くと、 そこには額に一つ黒斑のある真っ白な虎に乗った、ゆったりとした服を着ている青年がいた
左手には細い棒を持っていて、電流が走っているかのような気を纏っていた。


そのとき、遠くから化け物の声が聞こえる。デデババの声だ。
あの音を嗅ぎつけて、仲間のデデババが大勢やってきたのだ。

「そんなことより、逃げるぞ!」

その青年が正男たちのいる地面に立つ。そして左手を前に掲げると、空間に穴が開いてゆく

「この中に逃げるんだ!」

『はい!』


正男たちはうなずき、空間の穴に入る。





空間の穴内部。

白虎に乗った男は、入ってきた空間の穴からデデババたちの様子を見ている。
十数秒ほど見た後、穴を閉じて正男のほうを向き直った。どうやらデデババは逃げたようだ。


「ようやく逃げ切ったな。」

と白虎の男。


「………ですけど…」

正男一同は、空中に立っている。

「ここ……」

背景には時計のようなオブジェが浮遊している。

どこなんですかァーーーーーッ!!

そう、正男たちは見ず知らずの空間にいた。


「ああ、ココか?ここは『彷刻陣(ぼうこくじん)』、時間の流れが遅くなる空間さ」

「(そんなにすんなり答えられても…)」
正男たちは困惑していた。
自分たちが何故この空間にいるのか。そして、何故この男が助けたのか

「あ…あの……あの……」

「…おっと、言いたい事があるようだが…まずは落ち着こうか。落ち着いて素数を数えよう。」


…1分後。
正男たちはどうやら落ち着いた様子。しかし、まだこの状況は信じられない様子。そりゃそうだよね。

「……さて、ようやく落ち着いたようだし、説明するぞ。」

ゆったりとした服を着た男が言う。


「俺は申 公豹(しん こうひょう)最強の道士さ。」

……道士様!?
正男一同が口をそろえて言う。


―――この世界には、仙人システムというのが存在する。

仙人とは、何らかのきっかけで概念使役能力「道術」に覚醒したものである。
そして仙人は洞府(道場)を構え、弟子を取らなければならない。
道士は、概念使役能力を使える能力者で、そのように仙人に弟子入りしたものを指す。
道士は一人前に能力が使えるようになると、称号を得て、新たに仙人となることができる

一般人にとっては、道士も仙人も同じ能力者なので、両方とも様付けで読ぶ。



「ま、道士とは言っても、最近はろくな修行を受けずに遊びまわってるけどな。」

「え、そうなんですか」

正男がツッコミを入れる。

「(というか最強を自称するって…)」



「……でだ、本題に移ろう。」

「本題…?」

ザトシが言う。


「結論から言うと、お前らには―――――
仙道としての素質がある。


『え?』

「だーかーらー、お前らは能力者の種なんだって。
漏れ出してる仙力がその証拠だ。」

え、えええええええええええええええええ!?

正男たちが驚く。道士・申公豹は続けて言う。


「お前らはまさかそんな鍛えていない身体で神獣を討伐するつもりだったのか?

「う…」
正男たちの心にグサッと突き刺さる言葉。まさに図星。


「俺はピンチになっているやつを見ると放っておけない正確でね。
しかもそいつが仙骨(能力の素質)のあるヤツだなんて、俺が飛びつかねぇわけねぇじゃねぇか」

申公豹はにやりと笑い。

鍛えなけりゃ廃れちまう仙骨(ほね)、それを俺が今ココで鍛えてやるってこった、感謝しな

『…はい』



「それじゃ、それぞれの能力についてだ。」

「見たところ、お前はだな」
申公豹が正男を指差して言う。
正男は、自分の掌から炎が出る能力を思い出した。

「お前が
続いて浩二。

「そしてお前は毒と闇。喜べ、二属性持ちだぞ。喜べ」
最後にザトシを指して言う。


「じゃ、それぞれの修行カリキュラムを作るから待ってろよ。」
申公豹は後ろを向いて奥のほう(?)に去ってゆく。



「あ、待ってください!」
浩二が呼び止める。
「ん?」
「あの、修行ってどれぐらいかかるんですか…?」
「24日だ。」
「24日ぃ!?」
浩二が驚く。しかし申公豹が言う。
「安心しろ。この空間は時間の流れが24倍だ。要するに一日が外の空間の一時間に相当する。
お前らが24日修行をやっても外の世界では1日ちょっとしか経ってねぇよ」

「はぇー…仙人ってすごい…」
浩二はもう一度驚いた。